「新版シナリオの基礎技術」の書評・感想について書いていきます。
この本はゲームではなくドラマや英語の脚本としてのシナリオについて書かれた本です。
それでも、多くの脚本家やシナリオ製作者に読まれてきた古典からは「面白いシナリオ」という普遍的な要素についての深い知見を深めることができます。
僕の主観にはなりますが「ゲームプランナーならここだけ読んでおけばOK」という箇所も含めてご紹介していきますね。

当ブログでは現役ゲームプランナー、ディレクターの僕SHIMAがゲームプランナーを目指す人に役立つ情報を発信しています。


著者:新井一さんの略歴
ご自身も脚本家として、映画に300本以上、ラジオやテレビドラマに2000本以上もの脚本を作成されています。
その後は現在も40年以上運営されているシナリオライターの養成スクールである「シナリオ・センター」の創設者として、シナリオ製作者の養成に尽力されました。
「新版シナリオの基礎技術」書評
「新版シナリオの基礎技術」は映画・ドラマのシナリオ教本の古典として、これまで多くの人に読まれてきた本です。
ジャンルが異なるためゲームシナリオにそのまま使うことが難しい内容も多いですが、シナリオの構成や実際のテキスト文についてはかなり濃い学びが得られます。
シナリオ作成の古典で普遍的な要素を学ぶ


初版が出されたのが1968年とかなり昔に書かれた本ですが、それから50年以上経った今でもシナリオの教本として高い評価を得ています。
時代が変わっても人間が「面白い」と感じる物語の感性や本質は変わらないからですね。
ただ、文体の読みにくさや内容のレベルが高い分、知識0の状態で読み始めると何を言っているのかなかなか頭に入ってこず、難しく感じるはずです。
まずは別でゲームシナリオの基本を学んでから、2冊め以降により知識を深めるために読み進めることを強くおすすめします。



1冊めには「ゲームシナリオの書き方」でざっくり基本的な知識を得るのがおすすめです。
「ゲームシナリオの書き方書評」の記事も合わせて読んでみてください。
受け継がれてきた構成・テキストの技術


映画やドラマのシナリオ(脚本)との違いとして、ゲームシナリオには「プレイヤーが物語を選択する」という大きな特徴があります。
ですが、その中でもオープニングで始まりエンディングに向かう以上、物語の大きな流れというものはゲームシナリオにももちろん存在していて、そのためにまず「構成」を考えることも同じです。
また、マリオのような単純なアクションゲームを除いてテキストのないゲームというのは近年ほとんどありませんから、テキストの技術を学ぶことも必要です。
映画界はゲームに比べて歴史が長く、また商業的な成功のためにシナリオ研究への投資が活発に行われています。
「新版シナリオの基礎技術」ではそんな映画界で研鑽されてきた構成やテキストの技術について詳しく解説されているため、まだ歴史の浅いゲームシナリオの本だけでは得られない学びを見つけることができます。



ゲーム業界は歴史が浅く、このような長年教本として使用されてきた本がないので、確立された理論を取り入れておくことは重要です。
ただ内容的にはかなり古い本であるため、最新の主流となっているシナリオ理論とはやや異なる部分もあります。
とはいえ基本的な考え方の方針は変わりませんし、「新版シナリオの基礎技術」は解説がしっかりしている利点もありますので、この本で基礎を固めてから最近の本についても読んでいくとより厚みのある知識が得られるでしょう。
「新版シナリオの基礎技術」要約


初見だとゲームプランナーにとって必要な箇所がどこか理解することがまず難しいかと思いますので、僕なりにここを読めばいいよ!という項目だけピックアップして紹介します。
構成:「リトマス法」と「葛藤」による人物描写


「新版シナリオの基礎技術」では「起承転結」の構成を基本としてシナリオの流れの作り方が解説されています。
また、その細部の展開のさせかたとして、「リトマス法」を使用して「人間の葛藤」を描くことで人と物語が動いていきます。
何も事件が起きていないのに人が勝手に行動すると、ご都合主義というか物語を進行させるために行動させたような印象になってしまいます。
一方、リトマス法は出来事をもとに人間の反応としての行動が描かれるため、不自然さがありません。
そうした反応の連続の中で物語は進み、登場人物の目的の障害となる要素(葛藤)を乗り越えていくことで観客・プレイヤーは感情移入し物語に引き込まれていきます。
テキスト:ムダなセリフは一つもない


テキストに関しては、ダメなテキストの具体例や面白いテキストを書くための技術が数多く解説されています。
中でも重要に感じた一文を要約すると
元来、セリフというものは、<その登場人物が、その時点において、どうしてもいわなければならない唯一のもの>といわれています。
「新版シナリオの基礎技術」 178項
「どうしてもいわなければならない」というのは、人間の自然な反応としてそのセリフがないとおかしい場合や、そのセリフがないと伏線が機能しない場合のようなものです。
※ただし、その場合もキャラクターに「物語のためのセリフを言わせる」のは避けるべきで、リトマス法による自然な反応が好ましいです
2時間近くに及ぶ映画の中でも、「なぜこの人物はこんなことを言ったのか?」「なぜこのシナリオにこのセリフが必要なのか?」ということを考えながら見ると勉強になります。
これはゲームにおいても同じことで、優れた作品であればあるほど、たとえ村人Aの何でもないセリフでも必要だからそこに配置されています。
- なぜここに村人がいる必要があるのか?
- このセリフを言わせることで、プレイヤーになにを感じさせたい/理解させたいのか?
このようなことを意識しながらゲームをしてみると、新たな発見があるはずです。
シナリオの構成・テキストの技術を深めるには「新版シナリオの基礎技術」を読むべし!


「新版シナリオの基礎技術」は内容のレベルがやや高いため、完全な初心者には正直あまりおすすめできませんが、次のような人には大きな学びを得られる一冊です。
- シナリオについての基礎知識がある
- 構成やテキストについての理解を深めたい
まずはゲームシナリオについての基礎を学んだ上で、その中で自分に足りない要素として構成やテキストを深めるのにこの本は最適です。
作者の新井一さんが実際に数多くの映画やドラマ脚本を書かれているだけあって、非常に実践的な技術が解説されています。
シナリオについての研究が進んでいる映像の世界で磨かれてきた技法を使って、深みのあるゲームシナリオを書ける人になりましょう。
書籍情報


【書籍名】新版シナリオの基礎技術
【著者名】新井一
【出版社】ダヴィッド社
【出版日】1985年11月10日新版初版(旧版は1968年初版)
【頁数】341頁
【目次】
Ⅰ はじめに
1・シナリオを書くには
2・シナリオの表現と形式
Ⅱ 実習するための基礎技術
1・原稿用紙への書き方
Ⅲ シナリオとはどんなものか
1・映画の特性
2・ドラマということ
3・リトマス法とは何か
4・シナリオはどんな姿をしているか
Ⅳ 構成と発想のための技術
1・発想について
2・構成の実際
Ⅴ どうしても知っておかねばならない基礎技術(1)
1・起(ファーストシーン)
2・ファーストシーンの技術
3・面白い展開部(承)
4・クライマックス(転)
5・余韻のある結(ラストシーン)
Ⅵ どうしても知っておかねばならない基礎技術(2)
1・描写ということ
2・映画の描写とは
3・ト書について
4・セリフについて
Ⅶ どうしても知っておかねばならない基礎技術(3)
1・人物描写
2・人物描写の実際
3・場面描写
4・心理描写
Ⅷ どうしても知っておかねばならない基礎技術(4)
1・時間の処理をどうするか
2・モンタージュの実際
3・シャレードとは
Ⅳ シナリオ診断学からみた43の誤り
1・シナリオ診断学とは
Ⅹ シナリオ診断学からみた面白くするための31の技術
1・面白いということ
2・省略によって面白くする四つの技術
3・葛藤によって面白くする四つの技術
4・効果を高める七つの技術
5・増幅的な表現によるパンチのつけ方
6・人物の設定によるパンチのつけ方
7・実作の方法
(参考)シナリオのおすすめ本は「ゲームシナリオの勉強におすすめ本4選!」の記事にまとめていますので合わせて読んでみてください。
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