「ゲームシナリオライターの仕事」の書評・感想について書いていきます。
この本ではゲームシナリオの中でも特にRPGのシナリオに特化して解説されています。
構成がややちぐはぐなため知識ゼロの状態で読むと「…???」となるかもしれませんが、細かいながら具体的で役立つ知識が多く含まれています。
実際にゲームシナリオに関わる仕事をしている人や、他の本で基本を身に着けている人には必ずためになる知識が一つは得られるはずです。

当ブログでは現役ゲームプランナー、ディレクターの僕SHIMAがゲームプランナーを目指す人に役立つ情報を発信しています。


著者:前田圭士さんの略歴(引用)
ゲームデザイナー、シナリオライター
株式会社ゲームアーツ、シナリオ工房月光を経て、現在は有限会社マーズ所属。
制作に携わったゲームに「グランディア」「ルナ2」「我が竜を見よ」などがある。
「ゲームシナリオライターの仕事」書評
「ゲームシナリオライターの仕事」では「天外魔境2」「ルナ2」というRPG2本を題材にして、そのシナリオについての解説が展開されています。
起承転結に沿って解説が進み、最終的にそれぞれの作品の完結までを追うという流れになっています。
RPGのシナリオに特化


ゲームプランナーやシナリオライターを目指す人で、RPGを作りたいという方は多いかと思いますが、意外とRPGのシナリオに特化している本は少ないんですよね。
この本自体が2006年初版とやや古いこともあり、扱っているタイトルは古い作品ですが、それを差し引いてもRPGのシナリオを書くために役立つ学びは多く得られます。
また、扱っている2つの作品もそれぞれシナリオの方向性が異なるため、より広い視野でシナリオについての知識を身につけることができます。
- 天外魔境2:キャラクター重視
- ルナ2:シナリオ重視



それぞれ、「キャラクターを立たせるためのシナリオ技法」「物語に深みを出すためのシナリオ技法」が解説されています。
具体的かつ役立つ技術


「ゲームシナリオライターの仕事」では他の本ではあまり書かれていないような、かゆいところに手が届く細かいシナリオ技法についても解説されています。
僕自身が特に参考になったと感じたのはこのあたりです。
- ゲーム特有のマスコットキャラの存在
- 四天王や七本の聖剣など、「数」を出すことの意味
- フラグ誘導のテクニック
これらの内容については、もう少し下の「要約」の項目で詳しくご紹介します。
また、それだけでなく実際にゲームクリエイターとして活躍されている方たちのインタビューも読み応えがありました。
特に「桃太郎電鉄」などでおなじみのさくまあきらさんの記事はゲーム制作への考え方として参考になる点が多かったです。



さくまさんはまず「敵」を作り、次にその対比となる「正義の味方」のキャラクターを作るんだとか!
本の構成はやや理解しにくい…


ひとつ注意すべき点として、「ゲームシナリオライターの仕事」は章立て自体は「起承転結」に沿ってされているんですが、はっきり言ってそこに書かれている内容は章とほとんど関係がないです。
なので「この順番に構成していけば良い」といったものではなく、それぞれ独立したトピックが「起承転結」の中に無理やり入れ込まれているような構成になっています。
シナリオの構成について基本が分かっている人なら「ここに書かれている中身は起承転結なんて関係ないな」とすぐ分かるんですが、いきなりこの本から勉強し始めてしまうと混乱してしまう人がいるかもしれませんので注意してください。



別の本でシナリオ構成の基本を学んでから応用編として読むのがおすすめです。
「ゲームシナリオライターの仕事」要約


上記のとおりこの本の内容は構成がややちぐはぐなため、本の構成に沿って要約を解説すると逆に分かりにくくなってしまうと思います。
そこで僕自身が特に勉強になった3点に絞って、要約として解説していこうと思います。
主人公を代弁する「マスコットキャラ」


RPGにおいて、主人公の側から離れないマスコットキャラが存在するゲームは珍しくありません。
パッと思い浮かぶだけでも
- 「ゼルダの伝説 時のオカリナ」のナビィ
- 「ドラゴンクエスト9」のサンディ
- 「聖剣伝説3」のフェアリー
- 「ブレイブリーデフォルト」のエアリー
- 「天地創造」のヨミ
- 「GRAVITY DAZE」の黒猫
などなど。
ゲームならパッと考えるだけでも色々と出てきますが、映画や小説、漫画などではあまり思い浮かばないのではないでしょうか?



魔法少女アニメには昔からの伝統的にマスコットキャラが登場しますが、これも実はゲームならではの登場理由と近いものがあります。
なぜゲームにはマスコットキャラが頻繁に登場するのか、実はゲームならではの「マスコットキャラがいると便利」な理由があります。
- 主人公の代弁者
- 謎解きのヒント
- システム上のアドバイス
- シナリオの展開
ゲームには映画や小説と異なり「プレイヤー」が存在するため、感情移入を深めるために主人公の個性が弱めに作られていることが多いです。(主人公が全くしゃべらないドラクエがその代表ですね)



主人公にあまり話しをさせたくはないがそれでは物語を展開させにくい、そのバランスを取るのにマスコットキャラが主人公の代弁者として便利に働いてくれます。
また、
- 謎解きに詰まってしまって脱落してしまうプレイヤーが出ないようにそれとなくヒントを与えてくれる
- 売却できないアイテムの注意喚起やチュートリアルをマスコットキャラに担当させる
などによりシステム上の無機質になりがちな説明にも温度感を出すことができます。
マスコットキャラがトラブルメイカーだったり、マスコットキャラとの出会いがの冒険のきっかけになることも多く、そうした「シナリオを展開させる役割」としてマスコットキャラが使用されていることもあります。
(魔法少女アニメも大体はマスコットキャラがきっかけとなり魔法少女の戦いに巻き込まれていきますね。)
ゲームならではの「四天王」の利点


漫画などでも人気の存在ですが、ゲームにも「四天王」のような存在は頻繁に登場します。
特に「ロマンシングサガ」以降のサガシリーズで多くの作品に登場しているのが印象的ですが、これにもゲームならではの理由があります。
- シナリオの盛り上がり
- 進行度の目安
四天王のような存在が出てくるとそれだけでシナリオが盛り上がります。
いわゆる「厨二感」と言いますか、少年漫画の王道的な燃える展開になるんですよね。



漫画「ワンピース」でも「七武海」や「四皇」といった強大な相手にルフィが立ち向かう姿はカッコいいですし、その称号だけでもなんとなく凄いやつが相手だということが伝わるはず。
また、RPG特有の理由として「シナリオ進行度の目安になる」というものがあります。
RPGはプレイ時間が40時間以上にもなるものが多く、プレイヤーに飽きさせず最後までプレイしてもらえるよう設計する必要があります。
「今どのくらいまでシナリオが進んでいるのか(=あとどれくらいでクリアになるのか)」をプレイヤーがイメージできるとモチベーションが持続しやすく、あと四天王は残り何体、というのがその目安となります。
(四天王やボスを倒したら更なる展開が待っていることもありますが、それも意外性という面でシナリオを盛り上げることができ、プレイヤーの満足度は高まります。)
サガシリーズで「七英雄」や「七大驚異」など頻繁に登場する理由は、「フリーシナリオ」でプレイヤーが迷子にならないよう設定されているためでもあります。
「これを倒していくのがゴールですよ」という目的と進行度の目安を兼ねた存在というわけです。
次の行動を迷わせないフラグ誘導のテクニック


「フラグ」というのは特にRPGでよく使われるシステムで、フラグ1を立てるとイベント2が発生するみたいなものです。
例えばドラクエ5で「炎のリングと水のリングを入手する」(フラグが立つ)と → 「結婚式イベントが進行する」というイメージです。
RPGではプレイヤーが「次に何をすればいいのか」を見失わないよう、テキストで次のフラグにうまく誘導してあげる必要があります。
- イベント開始時に一番近くにいるNPCがヒントを教える
- 同じ誘導を繰り返し発言させる
- 画面表示時にマップ全体を写し、それとなく謎解きのヒントを見せる
などがフラグ誘導のテクニックとして挙げられます。
イベントが開始してまず何をするのか分からないプレイヤーのほとんどが、一番近くにいるNPCに話しかけます。
その人物にヒントとなるような発言「○○なら釣りに行くって言ってたぜ。いつもの浜辺じゃないかな」みたいなことを言わせることで次は浜辺に向かえばいいのか、とプレイヤーに理解してもらえるよう誘導するわけです。
特に重要で見落としてほしくない情報の場合は、一番近くに「味方キャラ」を配置してその人物に話をさせることで、プレイヤーが話しかけてくれる可能性はより高くなります。
また、上記のようなヒントをNPCではなく「イベント会話」の中で発言させる場合は「繰り返し発言させる」などでプレイヤーの印象に残すことが重要です。



イベント会話は読み返すことができないため、ボンヤリAボタンを連打してフラグ誘導が読み飛ばされてしまうのを防げるようにシナリオ設計してあげる必要があります。
さらに、シナリオからは少し外れますが「さりげなく画面内にヒントを写す」ことでフラグ誘導をするのも巧妙なテクニックです。
僕自身がこの記事を書いているちょうど今「ゼルダの伝説 スカイウォードソードHD」の発売直後なんですが、このフラグ誘導のテクニックを意識しながらプレイしていると非常に繊細にヒントが配置されていることに関心させられます。
基礎を身につけた次のステップに「ゲームシナリオライターの仕事」を読むべし!


ここまで書いてきた通り、「ゲームシナリオライターの仕事」にはシナリオ制作の上で役立つ細かい技術が解説されています。
ただ内容はいいのですが本の構成が理解しづらくなっているので、ゼロから体系的に学習するための一冊としては正直おすすめできません。
- RPGのシナリオ作成のテクニックを学びたい
- ゲームシナリオの基礎は理解している
この条件に当てはまるなら多くの役立つ知識が得られるので、ぜひ手にとって見てください。
書籍情報


【書籍名】名作RPGから学ぶシナリオ創作術 ゲームシナリオライターの仕事
【著者名】前田圭士 著 枡田省治/重馬敬 監修
【出版社】SoftBank Creative
【出版日】2006年7月31日初版
【頁数】309頁
【目次】
1章 シナリオとは何か?
■シナリオと何か?
■ゲームシナリオの制作過程
2章 起
■2章以降の流れについて
■天外2の「起」
■ルナ2の「起」
3章 承の1(展開部の1)
■天外2の「承の1」最初の展開部
■ルナ2の「承の1」最初の展開部
4章 承の2(展開部の2)
■天外2の「承の2」ふたつめの展開部
■ルナ2の「承の2」ふたつめの展開部
5章 承の3(展開部の3)
■天外2の「承の3」3つめの展開部
■ルナ2の「承の3」3つめの展開部
6章 承の4(展開部の4)
■天外2の「承の4」4つめの展開部
■ルナ2の「承の4」4つめの展開部
7章 転
■天外2の「転」
■ルナ2の「転」
8章 結
■天外2の「結」
■ルナ2の「結」
9章 ゲームシナリオの実例
(参考)シナリオのおすすめ本は「ゲームシナリオの勉強におすすめ本4選!」の記事にまとめていますので合わせて読んでみてください。
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